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2004年5月

 


杜若


サイズ 56 x 38 cm  
カリグラフィーペン(ミッチェル)、墨、金箔 
頭文字部分 : 日本画顔彩 金箔 書体:FRAKTUR フラクトゥール

De fleur en fleur dansent les papillons
Flocons de neiges au vent
Dessus les saules volettent les rossignols
Pépites d'or éparpillées

原文:花前に蝶舞ふ 紛々たる雪 柳上に鶯飛ぶ 片々たる金  
「杜若(かきつばた)」より 


「能の花」シリーズから季節に合わせて「杜若」。書体はゴチックの FRAKTUR フラクトゥールで、12月の一枚と同じ書体です。大文字の書体が他のものに比べてバラエティーに富んでいますから、このように時々大文字を使って書体の特性を生かすと共に、アクセントやリズムを与えています。綺麗な文字はおおいに使わないと。下段中央の「金」にあたる Or O はアクセントを付けるために金箔を置きました。

装飾頭文字のバックになっている柄は業平菱模様で、能「杜若」を演じる際に用いる装束から取っています。花はもちろん「かきつばた」で、地の色に陰と光を重ねて描いてゆく中世装飾画の技法を用いています。

能「杜若」は、三河の国の八橋(現在の愛知県知立市八橋)というところで、ある旅の僧が杜若の花に見とれていると、そこにどこからともなくひとりの女が現れます。その女性は、これは在原業平の歌にも詠まれた花で他の花と一緒にされちゃ困るゥと言い、伊勢物語の話を始めます。それは、旅の途中の業平一行が通りかかった時に、ある人が「かきつばた」の五文字を句の上に置いて和歌を詠むよう勧めたので、業平は「唐衣きつつなれにし妻しあれば、はるばるきぬる旅をしぞ思ふ」と詠んだというもの。(この歌を作品にしたものは Gallery の左側ほぼ中央にあります。紫系の色の作品。) そして、この女性は「これが歌に詠まれた衣、冠は業平の形見で、実は自分は杜若の花の精なのだ」と正体を明かすのです。そして和歌の功徳を賛美して亡き業平を弔い、優雅な舞を舞うというお話です。

作品のテキスト部分は、この杜若の精が僧に向かって、「はるばるお越し下さったのだから、この衣を身に着けて舞いましょう。花に舞う蝶はひらひらと降る雪のようで、柳の上を飛ぶ鶯ははらはらと舞う金のよう」と舞い始めるところ。

毎年かきつばたの季節になると、この八橋のかきつばた園で「かきつばた祭り」が模様されるそうです。